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小話:アリス・レル「戦闘系冒険者のオフ」

※ガバガバ独自設定大盛り小説もどき

※きほんてきにないようのないはなし

アリス・レル(Alice Rhel):サンシーカーの冒険者。すごいヒーラー。おしゃれ。

キナ・カーボニスト(Kina Carbonist):強面の冒険者、髪が無いのが特徴。

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 リムサ・ロミンサの酒場は大体がモーニングもランチもやっている。今日は休みということにした冒険者のわたしは朝から溺れる海豚亭で朝食を食べに来ているのだった。

「誰よその女!巨乳か!?」  少し離れた場所で二人の男女が諍いを始めた。よくある別れ話で、男の方の浮気相手は巨乳らしい、男はこういう話になると乳の話題の方に耳が行ってしまう。わたしもそう。

「あははは、おもしろい」 

 机を挟んで向こう側に座っている冒険者仲間のアリス・レルは真顔でそんなことを言う。本当におもしろがっているのかは知らない。アリスはクールではあるが無口じゃないので、どことなく話しやすい雰囲気を持っているサンシーカーだった。 「それにしても朝から元気だね。わたし眠くてしょうがないんだけど」 「わたしもねむい」 「キナさん、24時間起きてそうな顔してるのにね」 「強面なのは顔だけなんだよなあ」  無駄に強面なのが最近の悩み。あとスキンヘッド。  起きるのが遅い冒険者は稼げないとよく言う。酒場のギルドリーヴでは、うまい話は大抵早朝には無くなっている。ただそれは駆け出しで実績が不足していた場合の話であり、十分に実績がある場合はこの限りではない。  アリスは上級のヒーラーだ。ジョブ白魔術士。森の国グリダニアの秘中の秘である。本来は幻術皇と呼ばれる者のみが会得できる禁術だったが、近年は規制が緩和されており、幾重にも組まれた厳しい試験を通ることで、生まれや育ちは関係なく、つまり冒険者でも会得することができるようになっていた。ただその試験を受けるには幻術ギルドマスターと精霊評議会の承認が必要になる。  ひとまずそういった厳しいものを経験した上で私たちは冒険者としてはそこそこのレベルにはいる。こうやって朝から優雅にモーニング・セットを食べられるのもそのおかげである。 「なんか最近思うんだけどさ、たまに完全にオフの日にすると冒険者って案外やること無かったりするよね」  大声で別れ話を続けている男女を眺めながら言うアリスは少し眠そうだ。 「あ~、わかる。いろんな所行くのが仕事って感じのところあるし……ありすっすは最近は忙しいの?」  ありすっす、というのは共通の友達のララフェルが言い始めたあだ名だった、こういう謎めいたあだ名をつけるのが好きらしく、わたしも言いやすいので使っている。 「暇な方……って言いたいんだけど、最近オメガで忙しいんだよね。なんかもうすぐ新しいアップデートも来るみたいだし」 「最近みんなそれやってるよね。まあクリアすれば無料で強い装備貰えるし」 「基本的に冒険者って基本自転車操業だからねえ。そういう所で装備更新していかないと暮らしていけないところが辛いところだよ」  冒険者も自由とは言うけれども苦労は多かったりする。危険度の高い依頼をこなすほどその準備にもお金もかかるので言うほど儲からない。クラフターやギャザラーのプロであれば利益も大きいが、アリスのスキルはどちらかというと戦闘よりのもので商売にはあまり向かない。 「まとまった休みとお金があればいいんだけどね……旅行とか行きたいなぁ~」  アリスは脱力しながらため息をついた。  冒険者という職業柄いろいろな所には行くけれども、結局のところ仕事なのでゆっくり観光している暇なんてなかったりする。コスタ・デル・ソルで楽しむセレブを見ながらドカタとか運送屋みたいな仕事をするようなこともよくある。そもそも一攫千金を目指して冒険者になるのに、成功してもこれでは夢も希望もない。 「まあオメガのほうで装備にかかるお金押さえられればそこそこ余裕は出てくるよね」 「そうなの。はぁ、アジムステップ旅行目指してがんばろ……」  オメガとはガーロンド・アイアンワークス社が配信しているエクストリームバトルシミュレーションゲームの一つだ。冒険者をバーチャル空間で強いモンスターと戦わせて戦闘データを収集するのが目的らしいが詳しくは知らない。とにかくクリアした冒険者には高性能な武具がガーロンド社から配給されるので、腕に自信がある冒険者はこぞってこのゲームに挑戦している。アリスもその一人である。  やがてイエロージャケットが店の中にやってきて諍いあっていた二人を連れ出すと、ぱたりと騒がしかった店内は静かになった。気のせいか反動でいつもより静かになったようにも思える。それを見計らったかのようにすかさず店員が朝食を持ってやってきた。 「おまたせしました。ラノシアトーストが二つとラテマキアート、マルドティーになります」  バターと牛乳の甘いにおいが、ちょうどまだ朝を食べていないことを思い出させてくれる。  店員にチップを渡すと、アリスはさっそくラテマキアートを上品に飲み始めた。 「うん、やっぱりこういうのって静かな所で飲みたいよね」 「わかる~。リムサって人多いけど、グリダニアとかならもっと静かなのかなあ」  言ってから、どの街でも同じかもしれない。と改めて思った。少なくとも庶民向けの飲食店はどこもこんなものだろう。  休みにした日はどこかの街で穴場的なお店でも探そうかな。暖かいマルドティーに口をつけながら、なんとなくそんなことを考えた。


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